屋久島の生い立ちと自然景観について

 今回は、屋久島における森林や自然の景観などについて話してみたいと思います。
  屋久島に勤務し始めた頃に奧岳山岳部(島の中心部)をパトロールして最初に感じたことは「鬱蒼とした大陸の山の奥深い森林のようではないか。島の森林とはとても思えない」、さらに「屋久島は1万4千年前に花崗岩(かこうがん)のマグマが海底から隆起してできた島なのだ」ということでした。屋久島の自然の素晴らしさ、他の所ではとても味わうことができない屋久島の価値の高さ、まさに「世界自然遺産の島、屋久島」を実感しました。

 花崗岩は地下深いところで造られる岩石ですが、屋久島の切り立った岩山とか奇岩などの景観は、千年間に1mくらいのスピードで隆起して、雨水などの自然現象で削られて山岳部に高い山が連なることでできたと言われています。

 また屋久島は、黒潮が近くを流れ、島を取りまいています。南に生育する亜熱帯植物が見られますが、一歩山岳部へ足を踏み入れると、海抜0mから垂直的に最高峰の宮之浦岳(1,936m)までに多くの種類の植物が生育し、山頂付近には森林限界域(樹木が大きくなれず育たないところ)まで達しているのですから、すごいですよね。
 屋久島の南部地域の里では 今日2月7日は、沖縄や奄美大島などに生育しているカンヒザクラが咲きほこり、屋久島の北東地域・宮之浦に所在する私の勤務する保全センターから山をながめれば標高1,300mには積雪が見られます。この多彩さもよそにはない屋久島の大きな特徴ですね。

 屋久島の森林の四季の移り変わりは、春は「落葉樹の新緑若葉とハイノキやヤマザクラの白く小さい可憐な花など春の息吹の季節」、夏は「木々が葉っぱを一杯付けて森の中は鬱蒼とした清涼の季節」、秋は「落葉樹の、中でも北海道に生育するナナカマドや固有のヤクシマオナガカエデ等の黄色・紅色の黄・紅葉の季節」、冬は「屋久杉、モミ、ツガの針葉樹の森の荒涼とした景色の中に落葉樹のヒメシャラの木肌の茶色が葉っぱを落として明るくなった林内に映え、彩りを添えた静寂な森の季節であり、山頂では2mを超える積雪と霧氷の季節」というように、森林のうつろいが自然に身体に染みこんでくる、そういった感じがします。

さて、前回までに屋久島の自然や屋久杉の写真を紹介してきましたが、今回は屋久島の生い立ちと深い関係があり、自然景観を形成している花崗岩のマグマからできた主な奇岩などを写真で紹介します。

高盤岳のトーフ岩

高盤岳のトーフ岩 

 奧岳山頂には不思議な形をした奇岩が多く見られます。トーフ岩は、高盤岳(1,711m)の山頂に位置し、花崗岩が風化などして割れたもので、あたかも包丁でトーフを切ったように見えることからそう呼ばれています。

 

太忠岳の天柱石

太忠岳の天柱石

 天柱石は太忠岳(1,497m)の山頂に位置します。まるで右手の親指を突き上げたような特徴のある形をしています。高さは約40mあります。
拳骨岩の崩落前

拳骨岩の崩落前

拳骨岩(げんこついわ)は、淀川(よどごう)登山口から宮之浦岳登山歩道が翁岳(おきなだけ:1,860m)と分かれる標高1,760mの歩道近くに位置します。平成16年の台風後に写真の右1/3を残して崩落してしまいました。
 屋久島の悠久の時代にその存在を示してきたものの、現在ではそのおもかげがなくなり、なつかしい景観の一つとなってしまいました。

花崗岩の大岩壁と千尋滝(せんぴろのたき)

花崗岩の大岩壁と千尋滝(せんぴろのたき)

 鯛ノ川(たいのこがわ)の標高260mに位置し、二段状になっている滝で、その高さは約30mとも約60mとも言われています。
 左側に見える川の右岸の花崗岩の大岩壁の一枚岩はすごいですね。春には、白い花が見られます。千尋とは、とても幅が広いという意味です。

宮之浦岳から永田岳を望む

宮之浦岳から永田岳を望む

 屋久島の奧岳中心部、九州最高峰宮之浦岳(1,936m)から第2位の永田岳(1,886m)を望んでいますが、頂上部は花崗岩の岩肌と森林限界域のヤクシマダケ(ヤクザサ)などにおおわれています。5月末から6月にかけてのヤクシマシャクナゲの季節には、多くの登山者の姿が見られます。
永田岳北東斜面落下しそうな奇岩

永田岳北東斜面落下しそうな奇岩

 この大小3個の奇岩は、急斜面に順序よく並んでいて存在感を示していますね。これまで、落ちないでいるのが不思議ですね。

 

永田岳西斜面のロウソク岩

永田岳西斜面のロウソク岩

 花崗岩の断崖絶壁と一体にして撮影した写真です。小さくなって分かりづらいかもしれませんが、まさにロウソクが立っているような形をした奇岩です。接近した写真では、もっと分かりやすくなります。

 

モッチョム岳と割石岳

モッチョム岳と割石岳

 屋久島の一番南に位置する尾之間の前岳(奧岳に対して一番外側の山)、海岸から2kmに位置し、島民が日常生活を通して見上げるところにある花崗岩の山々です。一番右がモッチョム岳(944m)、左が割石岳(1,410m)。間近で見上げると、すごく切り立った岩壁(がんぺき:岩かべ)となっています。
冬の奧岳とヒメシャラの彩り

冬の奧岳とヒメシャラの彩り

 縄文杉が生育している近くの高塚((1,396m)一帯の奥山の森林の冬景色。屋久杉などの針葉樹や広葉樹の常緑樹にまじって、葉っぱを落としたヒメシャラの木肌の茶色が映えて彩りを添えています。山の中も、夏とちがって明るくなっています。

中間のガジュマル

中間のガジュマル

 屋久島の年間平均気温は約20度。近くを流れる黒潮の影響で、標高の低いところには亜熱帯植物が生育しています。ガジュマルなどを見ると、南の島という感じですね。

 

麦生のカンヒザクラ

麦生のカンヒザクラ

 人が生活している里には沖縄や奄美大島などに生育しているカンヒザクラやハイビスカス、ブーゲンビリアといった亜熱帯の植物が花を咲かせているのに、山には積雪。これも屋久島の大きな特徴といえますが、なんだか変な感じがしますね。