「わたしと富士山」


静岡県知事  石川 嘉延

         

私は、父親の仕事の関係で台湾で生まれ育ちました。当時、家では両親のふるさとである静岡についての話になることが多く、「静岡には日本一、いや世界一の富士山という山がある。」と父が、私や二人の兄に言ったことを覚えています。

私は、5歳の時に家族と共に日本に引き揚げてきましたが、初めて富士山を見た時の、単に美しいと感じるばかりか、何か自分の心の奥底に迫ってくるような思いを子ども心にも感じていたことを鮮明に記憶しております。

大学へ進学し、静岡県を離れていた時期には、ふるさとに対する思いと相まって、私にとって富士山はふるさとの山であると同時に、日本人の自然に対する畏敬の念や美意識、精神文化の原点と考えるようになりました。

静岡県のホームページに富士山のライブ映像があります。県のホームページの中でアクセス件数が断然多く、県内のみならず日本中の多くの方々が富士山にそれぞれの感慨を持って、そのライブ映像を楽しんでおられるのではないかと思っております。

私は、県政運営に基本理念に「富国有徳 創知協働」を揚げ、だれもが未来に希望を持てる社会を実現することを目指しております。

この「富国有徳」とは、豊かさを示す「富」と有徳の志をもった人を表す「士」、正に「富士山」のように、と言う意味なのです。私も知事として、日本一の富士山に負けないよう、「県民暮らし満足度日本一」の実現に向けて、毎日全力投球しております。

我が国が、世界遺産条約を締結した平成4年当時、富士山を「世界自然遺産」に登録しようという活動があり、平成6年には246万人の署名が集まりましたが、残念ながら自然遺産としての登録申請の手続にすら至りませんでした。

その理由は、富士山に世界遺産としての世界のどこにもない独特の要素が備わっているかについて学術的に疑問符がついたからです。しかし、一般的には、夏山のトイレ問題など、ゴミ、し尿処理対策等の管理体制が不十分で、汚れるままにされていることが自然遺産にならなかったのだと受け取られたようです。

このため、静岡県では、世界遺産登録の可否はともかく、汚れた富士山という汚名を何としても払拭しなければと考え、「富士山総合環境保全指針」を策定し、良好な環境の保全に積極的に取り組むとともに、平成10年には山梨県と共同して「富士山憲章」を定め、富士山の自然、景観、歴史、文化を後世に末永く継承していく運動などを全国に呼び掛けてきたところです。

トイレ問題については、今でも「富士山のトイレは汚い」「ティシュペーパーによる白い川がある」と想像している方もいると思いますが、平成14年からオガクズやかき殻に付着する微生物を利用した環境にやさしいバイオトイレの設置を進め、昨年で、すべての山小屋のトイレの整備を完了しました。

また、ごみ問題についても、富士山を愛する地元の人たちが「富士山エコレンジャー」 を組織し、来訪者への自然解説や保全の大切さを訴える活動を行っているほか、27年前から続く地元市長の一斉清掃の効果によって登山道のごみはほとんどなくなっております。  このように、富士山の環境保全対策が着実に成果を上げている中にあって、富士山が再び世界遺産、それも世界文化遺産として取り上げられようとしております。この実現のためにも、私は、環境保全活動の発展や環境保全意識の向上に向けての活動と、日本人の精神文化をはぐくんできた心のふるさと富士山の歴史文化の見直しを、全国の皆様とともに進めていきたいと考えております。

なお、静岡県庁の別館展望ロビーからは、実物の富士山を望むことができますが、天候などで見えない日でも臨場感あふれる立体ハイビジョン方式による富士山の映像を上映しておりますので、静岡にお越しの折には、是非、ご覧いただければ幸いに思います。

静岡県から見た春の富士山
静岡県庁、富士山ライブカメラのコーナーへはこちらからご覧下さい。
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