君が家の周りに、一本の木を植える。毎朝、「お早う」と声をかける。木も、「お早う、元気でね」と、葉をふるわせて答えてくれる。友だちが、仲間が、兄弟が出来たのだ。君が、成長する。木も、成長する。互いに、競争だ。君が病気で寝ているときは、「早くよくなるんだよ、頑張ってね」と、いっそう鮮やかな葉の緑とともに、木が励ましてくれる。

 君が家の周りに、もう一本の木を植える。朝、「お早う、元気でね」の木の声が、二倍になる。君は、二倍元気になる。病気したときも、「頑張(がんば)ってね」の木の励ましが、二倍になる。君はもっと早く、病気がよくなり、治るだろう。背が伸びて大きくなる木との競争にも、もっと熱が入るだろう。

 君が家の周りに、三本目の木を植える。「お早う」の声も三倍の、合唱になる。お父さん、お母さんが家にいない、君がひとりぼっちのときも、もう寂しくはない。夜も昼も、雨の日も風の日も、君の植えた木々がいつも傍にいて、お喋りしてくれる。君の仲間ができたのだ。カンカン照りのときも、涼(すず)しい木陰(こかげ)を作って君の話を聞いてくれる。学校で先生にほめられた話、叱られた話、友だちと遊んだこと、ケンカしたこと、楽しい話や悲しい話、何でもだ。それによって君の心はより楽しく、より明るく、より元気になる。どんな時にも仲間がいてくれるのは、何よりも心強い。

 君が家の周りに、四本目、五本目、六本目、七本目の木を植える。十本目、二十本目、三十本目の木を植える。さらに百本目、二百本目、三百本目、五百本目、千本目の木を植えれば、やがて林が出来、森が生まれる。「元気でね」の、林や森の大合唱が起きる。自分にとって大元気、大安心が生まれるとともに、自分の村、自分の町の、林や森が出来ることになる。

 そこは、自然の荒々しい森とは違う。君や村の人、町の人と同じ大気、同じ土、同じ水を分かち合い、ともに呼吸し合い、ともに生き合う、「息遣(いきづか)いのきこえる」林や森である。そこには、「いのち」が溢れ、小鳥が美しく歌い、ミツバチがおいしいハチミツを作り、虫たちが賑やかに集う。木漏(こも)れ日が輝き、雨上がりの水玉が木の葉に光って、最高に美しい芸術作品を生んでくれる。

 そこでは、人も自然も心を聞き、ともに愛し合う。林や森の大合唱、交響曲(こうきょうきょく)がきこえる。「いのち」のきらめきがある。
 君の植えた一本、一本の木が大きく成長し、林となり森となるとき、その林や森のある村や町が、君の本当のふるさとになる。たとえ君が大きくなって地球の反対側で働き、くらしたとしても、君が植えた木、君が作った林や森には、ともに育みそだてた愛がある。そここそが、君の帰るべき心のふるさとである。そこには愛があり、美しさと安心がある。君の植えた木々こそが、君の愛する仲間、幼なじみだからだ。

 まず、一本の木を家の周りに植えることから始めよう。木を植え、木を愛し、元気と、美しさと、安心の原点を作ろう。一本にさらに一本を加えつづけ、木の仲間、木を植える仲間を増やし、手に手を取って広々とした心のふるさとを作り出そう。

 人と木、人と自然、そして人と人とが呼吸し合い、生き合い、愛し合うところに、私たちの明るい未来がある。そこに、二十一世紀の幸せがある。